ビジネスと社会 / HYGIENE
バケツの水を、
ひとりごとに替えていますか
文:フェイスペイントジャーナル編集部
要旨 フェイスペイントの運営をめぐる議論は、美容師法との関係に集中しがちです。その陰で見落とされているのが、筆やスポンジをすすぐバケツの水です。水を交換しないまま描き続けると、前の人の皮脂や汗を含んだ水で、次の人の顔に描くことになります。美容師法が美容師に求めている「客1人ごと」の衛生の考え方は、免許の有無に関わらず、顔に触れる体験を提供するすべての運営者にとって参考になります。
法令の議論の陰で、見落とされている「水」
イベントのフェイスペイントについて、主催者から寄せられる相談の多くは「美容師の免許が要るのか」という法令の話です。それ自体は大切な確認ですが、現場を見ていると、もうひとつ気になる場面があります。
ブースの足もとに置かれた、筆をすすぐためのバケツ。行列が続くなか、水を替えないまま何十人もの顔に描き続ける。午後になるころには、水の色が変わっていることも珍しくありません。
描かれる側から見ると、これは「前の人の顔に触れた筆を、前の人の皮脂や汗を含んだ水ですすぎ、そのまま自分の顔に描かれる」ということです。小さな子どもの顔や、目や口の近くに描くことも多いフェイスペイントでは、見過ごせない問題です。
美容師法が求める「客1人ごと」
美容師法は、美容師が美容の業を行うときに講じなければならない措置として、次のように定めています(第8条)。
- 皮ふに接する布片及び皮ふに接する器具を清潔に保つこと
- 皮ふに接する布片を客1人ごとに取り替え、皮ふに接する器具を客1人ごとに消毒すること
- その他都道府県が条例で定める衛生上必要な措置
美容所では当たり前の「ひとりごと」の衛生が、法律で求められているということです。この条文が直接かかるのは美容師ですが、肌に触れる道具を介して人から人へ汚れが移るリスクは、描く人が誰であっても変わりません。法律が直接求めていない運営だからといって、衛生への配慮が要らないことにはなりません。
出典:美容師法(昭和32年法律第163号)第8条。フェイスペイントと美容師法の関係は日本フェイスペイントイベント協会「法令の基礎」にまとめています。
「ひとりに、ひと杯」という基準
日本フェイスペイントイベント協会(JFEA)は、水を使う運営について、バケツの水をお客さまおひとりごとに交換することを推奨衛生基準として示しています。あわせて、筆やスポンジは人数分を用意するか、おひとりごとに洗浄・消毒すること、使った水を流す場所を会場と事前に決めておくことを挙げています。
言葉にすると簡単ですが、実際の運営に落とすと、準備はそれなりに変わります。
- 参加者が100人なら、水の交換は100回。交換用のきれいな水を、その分だけ用意する
- 使った水を流せる場所が、ブースの近くにあるか。会場の許可は取れているか
- 交換の時間を見込んだうえで、1人あたりの時間と行列の長さを計画する
屋外の広場や商業施設の通路など、水場から離れた場所でのイベントほど、この負担は大きくなります。だからこそ、企画の段階で「水をどう扱うか」を決めておく必要があります。
主催者ができること
フェイスペイントを外部に依頼する場合、衛生管理は運営者任せになりがちです。主催者の側で、次の点を確認しておくと安心です。
- 描くときに水を使うかどうか
- 使う場合、水をひとりごとに交換する運営になっているか。見積もりや仕様書に、そのための人員と時間が含まれているか
- 筆やスポンジを人数分用意するか、ひとりごとに洗浄・消毒するか
- 使った水を流す場所を、会場と取り決めているか
- 描く前に、肌の状態やアレルギーを確認するか
水を使う画材でも、ひとりごとの交換と道具の管理ができていれば、衛生上の心配は小さくなります。一方で、水場の確保が難しい会場や、短時間に多くの人へ描く企画では、水を使わずに描ける画材を選ぶのもひとつの方法です。大切なのは画材の種類ではなく、ひとりごとの衛生を、運営として実際に回せるかどうかです。
開催前に使える「セルフチェック」
JFEAは2026年11月、主催者・運営者向けの「フェイスペイントイベント セルフチェック」を公開しました。描く人や描く場所、料金、画材、水の扱いなどの質問に答えると、美容師法と衛生の2つの観点で確認ポイントがわかります。
- 水を使う運営では、ひとりごとの交換の案内が必ず表示されます
- 開催地を選ぶと、管轄の保健所の窓口と電話番号が表示されます(現在は東京都の62区市町村に対応)
- 入力した内容から、保健所に相談するときに使える「相談シート」を作って印刷できます
セルフチェックの結果は目安で、法的な判断ではありません。迷う点があれば、相談シートを持って、開催地の保健所に早めに相談するのが確実です。
編集部の視点
フェイスペイントは、参加者の顔に直接触れる体験です。法令に沿っているかどうかと同じくらい、「きれいな道具で描いてもらえたか」は、参加者や保護者の安心を左右します。ひとりに、ひと杯。この小さな基準を当たり前にできるかどうかが、フェイスペイントがイベントの定番として信頼されるかどうかの分かれ目になると、編集部は考えています。
水場の確保が難しいイベントでは
ミラクルペイントは、水も筆も使わず、指とドットペンで描けるフェイスペイント専用画材です。乾くとゴムのようになり、描いたあとはつまんではがして落とせます。ドットペンとパレットは、おひとりごとにウェットティッシュで拭き取って使います。
※ミラクルペイントは天然ゴム(ラテックス)を原料にしています。ゴム・ラテックスアレルギー、フルーツアレルギー(バナナ、アボカド、キウイ、栗など)のある方は使用できません。
※この記事は、条文と一般的な考え方をまとめたものです。個別のイベントの衛生措置や、法令に沿っているかどうかの判断は、開催地を管轄する保健所にご確認ください。
※関係の開示:本誌は株式会社POOLが運営しています。ミラクルペイントは同社の製品で、日本フェイスペイントイベント協会は同社代表が設立した団体です。
転用するなら
- 肌や口に触れる体験(メイク、試食、試飲など)で、「ひとりごと」の衛生を運営の要件として書いているか
- 衛生管理に必要な人員・時間・水場を、見積もりと会場の計画に入れているか
- 参加者から見える場所で、衛生管理をしていることが伝わる運営になっているか
