FIFA サッカーワールドカップ2026 〜パブリックビューイング会場でのフェイスペイント〜プロペインターに聞く
- 7月6日
- 読了時間: 6分

サポーターとして、フェイスペイントで応援する「一体感」を。
サッカー日本代表戦のパブリックビューイング。日の丸を頬に描いたサポーター同士が、初対面でも肩を組んで喜び合う光景を見たことがある人は多いはずだ。あの一体感は、いったい誰がどうやって作っているのか。
今回フェイスペイントジャーナルでは、2002年日韓ワールドカップの熱狂をきっかけにフェイスペイントと触れ、2026年のFIFAワールドカップではプロのフェイスペインターとして石川県金沢市最大級のスポーツバー「225BAR」で日本代表戦3試合を担当。
たったひとりでのべ200人以上にペイントを施したプロフェイスペインター・薬子利恵さんに、惜しくも日本代表は敗れてしまったがブラジル戦直後に、「フェイスペイントという表現が現場で何を生み出しているのか」をインタビューさせて頂いた。
きっかけは「客席側」だった
薬子さんがフェイスペイントと出会ったのは2002年の日韓ワールドカップの札幌会場。当時からイタリア・セリエAとイングランドサッカーの熱心なファンだった薬子さんは、大通公園のファンヴィレッジに設けられていたフェイスペイントブースで、自分の顔に応援国のペイントを施してもらったファンの一人だった。
その後、MCやボディジュエリーアートなどの仕事を経て、国内唯一のフェイスペイントイベントブランド「ミラクルペイント」の認定ペインターとなった。従来のフェイスペイントやボディアートも手がけていたが、「あとのことまで考えがちな日本人にとっては心理的ハードルが高かった」ことに気づき、より気軽に楽しめるフェイスペイントとして「ミラクルペイント」を選んだという。
「一度体験して『楽しかった』と思ってもらえれば、次はもっと軽い気持ちでフェイスペイントをしに来てくれる。まずはそのハードルを下げることが大事なんです」(ミラクルペイントは)はがせる画材であることは大きな心理的な障壁を払拭するブレイクスルーアドバンテージになっているという。

90分で100人。現場を止めない「回転」の技術
FIFAワールドカップ2026では、石川県金沢市のスポーツバーが会場となり、日本代表戦の試合ごとにフェイスペイントブースを展開した。最も盛り上がったブラジル戦では、開場から90分ほどの間に100人以上にペイントを施したという。
「一人にかける時間は1分もかけません。並んでいる間も『次の人はどんな絵にしよう』と考えていて、手を止めないことが一番大事」。行列の解消と入場のスムーズさは、会場運営そのものに直結する。薬子さんが単なる「絵の上手い人」ではなく、イベント現場の段取りを理解した「運営のプロ」として重宝される理由がここにある。実際、スタッフの配置や受付の流れまで店舗側と相談しながら組み立てていくといい、単発のパフォーマーではなく、現場運営のパートナーとしての顔も持つ。

フェイスシールでは生まれない「もうひとつの効果」
Jリーグなどでは、スポンサー企業が用意した既製の「フェイスシール」を配布するケースも多い。薬子さんに、シールとペイントの違いを尋ねた。
「シールは同じ絵が量産できて手軽ですが、貼った瞬間に完成してしまう。ペイントは、目の前でその人だけの絵が仕上がっていく過程そのものが体験なんです」
この「過程」こそが、シールには再現できない価値を生んでいるという。実際に会場では、ペイントを待つ列そのものがコミュニケーションの場になり、順番を待つ人同士が自然と会話を始める光景が何度もあったそうだ。
さらに象徴的なのが、ユニフォームやグッズを持たない人でも、顔に日の丸を描いてもらうだけで「同じチームを応援する仲間」だと一目で分かり、その場にいる人たちの輪に自然と溶け込めるという効果だ。
「グッズを持っていない外国人サポーターが、私が日の丸を描いているのを見て『自分の国の色でも描いてほしい』と話しかけてくれたこともありました。言葉が通じなくても、顔のペイントがきっかけで会話が始まる。シールを貼るだけでは、あの瞬間は生まれません。」と薬子さんは熱く語る。
試合終了後、勝利の余韻の中で「ありがとう」と声をかけられることも多いといい、ペイントは単なる装飾ではなく、観戦体験そのものの記憶に結びついていることがうかがえる。お店を出てきたお客様がハイタッチしてくれる瞬間の感動はフェイスペインターならではの快感とも言えるだろう。
※薬子さんによるお写真のご提供ありがとうございます。
カメラマンもメディアも、「フェイスペイント」を探している。
薬子さんが強調したのは、フェイスペイントが会場そのものの露出を押し上げるという点だ。試合当日は、このパブリックビューイング会場にも地元テレビ局複数社や新聞の取材が入った。
「メディアからすれば、熱狂を表現できる画が欲しいので、カメラは、顔にシールよりもペイントをして盛り上がっている人にレンズを向けたくなるものなんです。インタビューを受けやすいのも、ペイントをしている人。」
ペイントをしたお客さん自身が、その場で撮った写真をInstagramのストーリーズなどに投稿し、店舗をタグ付けして発信するケースも多かったという。結果として、会場となったスポーツバーは「一度きりの盛り上がり」で終わらず、SNS上での発信が来店のきっかけとなり、次の試合にも足を運ぶ人が増える好循環が生まれた。
当初は手探りで始まった取り組みだったが、来場者の反応や店舗の評判が積み上がるにつれ、店舗側からも正式にオファーを受けて継続する関係へと発展していったという。地元紙に取り上げられたこともあり、「石川県で一番盛り上がっているパブリックビューイング会場」という声も聞かれたそうだ。
安全面への配慮も欠かさない
近年はコロナ禍の経験も踏まえ、専用の絵の具や道具の管理、施術時間の短縮など衛生面への配慮も徹底しているという。「肌に触れる時間はできるだけ短く、小さなお子さんが安心して参加できることも意識しています」。見た目の華やかさだけでなく、こうした細やかな運用面の設計も、イベントのプロとして現場を任される理由の一つだろう。
今後の目標は「サッカー以外」への展開
最後に今後の展望を尋ねると、薬子さんはサッカーに限らない構想を語ってくれた。野球やバスケットボール、ラグビーなど、他競技の応援イベントへの展開を視野に入れているという。加えて、フェイスペイントを担える人材を育てる講習会の開催や、スポーツ団体・協会と連携した体制づくりにも意欲を見せる。「一人でできることには限りがあります。全国のいろいろな応援の現場に、この体験を広げていきたい」。
「すべてのスポーツのサポーターを応援することが私のフェイスペインターとしての使命なんです。」
彼女は最後にこう締めくくってくれた。
編集後記
取材を通じて見えてきたのは、フェイスペイントが単なる「顔の装飾」ではなく、来場者同士のコミュニケーションを生み、会場の一体感を演出し、さらにはメディア露出やSNS拡散という形で主催者・店舗側にも実利をもたらす「装置」になっているという事実だ。
既製のシールでは代替できない、その場限りの一点物としての体験価値、そして人の手が生み出す会話のきっかけは、応援イベントの熱量を左右する要素として、企業やイベント企画会社、スポーツチーム、商業施設が本格的に検討する価値のある投資と言えるかもしれない。
取材協力:MIRACLE PAINT®
取材協力:薬子利恵さんのInstgram

































































































