インタビュー / PROFESSIONAL PAINTER
パブリックビューイングの一体感は、
だれがつくっているのか
取材・文:フェイスペイントジャーナル編集部
要旨 2026年FIFAワールドカップ。金沢市のスポーツバー「225BAR」で日本代表戦3試合を担当し、ひとりで延べ200人以上に描いたプロフェイスペインターの薬子利恵さん。ブラジル戦の直後に、フェイスペイントが現場で何を生み出しているのかを聞きました。
きっかけは、客席側だった
2002年日韓大会の札幌会場。大通公園のファンヴィレッジで、応援する国のペイントを描いてもらったファンのひとりが薬子さんでした。MCやボディジュエリーアートの仕事を経て、ミラクルペイントの認定ペインターに。「あとのことまで考えがちな日本人には、フェイスペイントは心理的なハードルが高い」と気づき、はがせる画材を選んだといいます。「一度『楽しかった』と思ってもらえれば、次はもっと軽い気持ちで来てくれる。まずハードルを下げることが大事なんです」。
90分で100人。現場を止めない技術
いちばん盛り上がったブラジル戦では、開場から約90分で100人以上に描きました。「一人に1分もかけません。並んでいる間も次の人の絵を考えていて、手を止めないことがいちばん大事」。スタッフの配置や受付の流れまで店舗と相談して組み立てる、現場運営のパートナーでもあります。
シールにない価値は「過程」
シールは、貼った瞬間に完成してしまう。ペイントは、目の前でその人だけの絵が仕上がっていく過程そのものが体験なんです。
ペイントを待つ列では、知らない人同士が自然と話し始めます。グッズを持っていなくても、顔に日の丸があれば「同じチームの仲間」だと一目で分かります。日の丸を描く様子を見た外国人サポーターから、「自分の国の色でも描いてほしい」と話しかけられたこともありました。
カメラは、ペイントを探している
試合当日は地元のテレビ局や新聞が取材に入りました。「熱狂を表す画がほしいので、カメラはペイントで盛り上がっている人にレンズを向けたくなる」。来場者が撮った写真をストーリーズに投稿し、店をタグ付けして発信する。それが次の試合の来店につながりました。手探りで始めた取り組みは、店舗から正式に依頼を受けて続く関係になったそうです。
安全への配慮
専用の画材と道具の管理、施術時間の短縮など、衛生面への配慮も徹底しています。「肌に触れる時間はできるだけ短く。小さなお子さんが安心して参加できることも意識しています」。
編集部の視点
来場者同士の会話、会場の一体感、メディア露出、SNSでの発信、そして再来店。フェイスペイントは、店舗に実利をもたらす「装置」として働いていました。今後は野球、バスケットボール、ラグビーなど他の競技へ広げ、描ける人を育てる講習会にも取り組みたいといいます。
転用するなら
- 行列そのものを、会話と期待の時間に変えられているか
- 取材のカメラが撮りたくなる「熱狂の画」を用意しているか
- 来場者の投稿が、次の来場につながる導線になっているか